「南京事件」の取り扱い


藤原彩女さんのブログで以下のようなコメントを書いた。

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南京事件」については、あくまでも純粋な探求心からそれを詳細に研究する事自体は良いとは思うのですが、現在においてのこの事件の扱われ方に、どうも「悪意」のようなものを感じているというのが正直な所です

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当エントリーで、もう少し掘り下げて書きたいと思う。


まず南京事件の事実関係について語る為には、やはりそれを専門に調べた書物を読まなければ難しい。特にその存在を否定する立場に立つ場合は尚更である。

その前提で、少し前に騒動になった川村たかし市長の南京事件否定論は、その内容が南京事件否定論者にとって有益なものか否かの観点が考える限りにおいても、とてもそうとは言えない。
発言内容については、以下のようなものである。

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名古屋市河村たかし市長は20日、市役所を訪れた中国共産党の南京市委員会幹部らに、戦時中の旧日本軍の行為に関し「通常の戦闘行為はあったが、南京での(大量虐殺)事件はなかったのではないか」と述べた。その上で「真実を明らかにするためにも、討論会を南京で開いてほしい」と求めた。
河村さんは「南京で終戦を迎えた父は、現地の人からラーメンの作り方を教わるなどのもてなしを受けた。本当に事件があったなら、日本人にやさしくできるものか、理解できない」と大量虐殺に懐疑的な考えを示した。

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いくらなんでも、父親がラーメンの作り方を教わった事を根拠に、南京での虐殺行為の有無を判断するなどというのは無茶が過ぎる。左派でなくとも、これでは「南京事件否定論」としてはお粗末だと言われても仕方がない。

否定論者としての立場に立つ事自体は問題は無いが、そこに立ち入る為にはやはり専門知識が必要となるのである。河村市長が南京事件についてどの程度詳しいのかは分からないが、少なくとも上記の場所でその知識を披露しているようには見えなかった。何も知らないで否定していると批判されても仕方無い部分はあるだろう。正直河村市長をこぞって叩いていた左派の中には、「発言に純粋に怒りを覚えた」というより「良い鴨を見つけた」と言わんばかりの不純な動機を持つ者がいたようには思えるが、叩かれても仕方無いようなお粗末な根拠で南京事件を否定した河村市長に同情するのは無理だと言える。


私は南京事件の事実関係については、それこそウィキペディアに書いている程度の内容しか分からない。本格的に研究しようと思えば、以前inunumaaさんにご紹介頂いた書籍等に手を出さなければならなくなるが、金銭的余裕が無い以上に、時間的余裕が無い。また正直言って、そこまで掘り下げて南京事件を研究したいという意欲も沸かないのである。

誰だかは忘れたが、何故日本の戦争犯罪ばっかり取り上げるのかと言う問いに対し、「日本の戦争犯罪を詳細に研究し、それを深く反省する事で二度と戦争という悲劇を繰り返さないようにする」というような回答をした左派がいた。「日本が二度と戦争という過ちを起こさないように」という意見は分からないでも無い。そして日本が二度と戦争を起こさない為に、「何故日本は戦争をしたのか」と言った、過去の日本の言動を詳細に省みる事も有効な手段だとは言えるだろう。

問題なのは、そのような観点で戦前の日本を研究するに辺り、南京事件の事実関係を詳細に研究する事が必要なのかという点である。何度もしつこく言うが、南京攻略戦は国家としての行為(ただし追認ではあるが)であるが、その後起こった南京事件は、計画性も無ければ組織的でもない個々の日本兵による暴行事件である(その規模自体は犠牲者数数万人〜数十万人ととんでも無いが)。無論それを持って日本政府に責任は無いとか言っているのでは無い。日本政府の意思は特にこの事件に反映されておらず、南京事件の事実関係をどれだけ正確に洗い出したとしても、「日本が(左派が言う所の)『侵略戦争』を何故仕掛けたのか」などと言った大局は見えてこないのだ。日本政府が南京事件を起こす為に南京を攻略した訳でも無いのだから当然である。


勿論純粋な知的好奇心から南京事件を詳細に研究している者に対して何も言うつもりは無い。ただそれをさもアメリカの原爆投下のような「国家主導の虐殺行為」などと言う扱いで取り上げるのは不適切だと言っているのである。「戦前の日本を悪」という見方は自由だが、「戦前日本は南京事件を起こした。だから悪だ」なんというのは、木を見て森を見ない意見では無いかと思うのだ。