三光作戦をどう見るか?

三光作戦をどう見るか」
http://d.hatena.ne.jp/rekihiko4/20120508/1336489233

更新休止するつもりだったのだが、rekihiko4さんからのトラックバックを頂いたので、一応そちらに返答した上で改めて休止に入りたい。身体的にも精神的にも余り余裕が無いので、極力要点に絞って返答させて頂く事にする。

最初に申し上げておくと、かなり辛らつな文章になっている(rekihiko4さんの今回のトラックバック文に、少々悪意のようなものも感じ取っている事も関係しているのかも知れない)。今度こそ本当に絶縁されるかも知れないが、それはそれで仕方ない。

>パールは三光作戦や、シンガポール華僑虐殺(粛清)などを知らなかったようだ。パール意見書が当時の限られた時間、限られた史料で作られた以上仕方ないことだが、現在これを用いて「日本に国家的虐殺命令はなかった」というのはあまりにも稚拙かつ粗雑である。

知らなかったも何も三光作戦東京裁判の訴状に挙がっていない。事実認定がどうのこうの以前の問題であり、文句があるなら東京裁判の検事団にでも言えば良いだろう。

正直申し上げて、私はこの三光作戦の実在そのものに疑問を持っている(被害者数は特に)。ただ事実関係についてrekihiko4さんと議論出来る知識は無いので、この点は保留する。ここでは、三光作戦東京裁判の訴状に上がったと仮定して、それを「国家による非戦闘員の無差別殺戮命令の証拠」とパール判事が見なしたかどうかを推察してみたい。

まずパール判事は、意見書の中で第一次世界大戦中にドイツ皇帝ウィルヘルム二世がオーストリア皇帝に宛てたとされる書簡を紹介している。その内容は、以下のようなものである(抜粋)。

「余は断腸の思いである。しかしすべては火と剣の生贄とされなければならない。老若男女を問わず殺戮し、一本の木でも、一軒の家でも立っていることを許してはならない。・・・」

戦争を早く終わらせるためにフランス人無差別殺戮の政策を採った証拠であるとしてパール判事は紹介しており、このようなものが被告(A級戦犯)の所為には見出しえないと結論付けている。

これを踏まえ、rekihiko4さんが挙げられた三光作戦の命令書の内容を見てみたい。

>「1、敵および土民を仮装する敵 殺戮」「2、敵性ありと認むる住民中15歳以上60歳までの男子 同上」としている。はっきりと怪しげな男性は殺し尽くせといっているのだ(山田朗歴史修正主義の克服』129ページ)。」

まずもって(非戦闘員を対象とした)「皆殺し命令」などと称するのには無理がある。結局の所戦時における戦略の一つであり、この命令書単体ではそれ以上の意味を見出せない。「こんな命令が下されたら、とりあえず現場としては「とにかく男子は殺せ」となるだろう。」と別エントリで言っているが、rekihiko4さんの想像の域を出ていない。これを元に、非戦闘員の無差別殺戮が政策として行われた証拠としてパール判事が受理するとは思えないのである。

>別にトルーマン大統領だって「民間人を皆殺しにしろ」と命令したわけではない。原爆投下を命令しただけだ。

実際にトルーマン大統領が「原爆投下による民間人の被害を想定していなかった」と主張するならそれは自由だろう。三光作戦の命令書と同質であると取るかどうかなどはrekihiko4さんが自由に解釈されれば良いが、いずれにせよ子供の屁理屈の域を出ていないと言わざるを得ない。いずれにせよ、民間人虐殺の意図がその命令に含まれているかどうかなどは、極端な話当人にしか分からない。そのような「悪意」を裁判所で認定する事自体が本来困難である事を示す事例でしかない。

最後に、

>この点については「違反行為の防止怠慢」も国際法違反で、国家犯罪である、という反論をトラックバックしたが、返信はなかった。

意図して無視したつもりは無いが、それは申し訳ない事をした。
実は「不作為」だけでは東京裁判の管轄外になってしまう為、南京事件段階で検察側はかなり無理な主張をしている。日本政府が戦争犯罪の行われていることを「知っていた」と断定し、それを「止めなかった」という事実から、戦争犯罪は政府の政策だったと見なせたというものである。この主張に対しパール判事は、「南京残虐行為」の報告が東京の政府に届いていたことは認めるが、政府がこの問題に関する処置をとり、司令官は交代し、残虐行為も2月初旬までに終息したことから、残虐行為が政府の政策の結果とすべき理由が無いと却下している。また、政府関係者以外に、南京陥落時の司令官だった松井大将など軍隊を指揮していた軍人が「A級戦犯」の中に9名いたが、そのいずれに対しても、関連した事実を検証した結果(パール判決書(下):611〜620ページまでの範囲)、不作為責任に問われるべき被告はいないと結論つけている。

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南京に続いて広東、漢口、長沙、桂林からフィリピンに至るまで検証は続くが、結局のところ、不満足な証拠によって散発的な事件が語られているだけで、全く何も証明していなかった。「勝者をふくむどのような列強の、どのような軍隊でも、おなじようなさん発的事例が起こらなかったことはほとんどないのである」とパールは言う。(パール真論:336ページ)

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結論として、rekihiko4さんの主張からはっきりと分かるのは、「悪く思おうと思えばいくらでも思える」と言う事だけであり、ここまで来ると「好きにすれば良い」としか言いようが無いのだ。似たような事は以前にも書いている。

ネット右翼では左派に太刀打ちできない」
http://d.hatena.ne.jp/syachiku1/20120128/1327736249


結局長文になってしまった・・・。返答として不十分かも知れないが、私からは以上である。