「会社員」として肝に銘じておくべきこと(私見)


ある特徴的な先輩社員の話をしたい。以後A氏と呼ぶ。

A先輩は最近勤続30年を迎え、10年ちょっとの私など子供にしか見えない程のベテランである。実際この方が入社した頃の私は3〜4歳児位である。

私は別にA氏を嫌っている訳では無いし、実際後輩思いの部分もあり、私自身も結構目を掛けて頂いた事もある。しかし客観的かつ冷徹に見る限り、この方は社会人として尊敬するには難があり過ぎるというのが正直な所である。


まず、50代のベテランではあるものの、管理職では無いし、過去に管理職を任された経歴もない。勿論管理職になる社員など一握りであり、定年まで平社員のままでいる先輩社員はザラにいる。ただその方々は、大抵他の社員には無いような特技や強みを何かしら持っており、管理職からも一目置かれる人(俗に言うスペシャリスト)が大半である。
しかしながら、A氏にはそう言ったスペシャリティな知識や技術がろくに無いと言わざるを得ない。私が知る限りでも、様々な分野の仕事を経験されているが、目覚しい成果を挙げたなんて声は聞かないばかりか、独断専行や思い込みで行動してプロジェクトの進行に支障を来たしたり、取引先と揉めて出禁を食らったりと、ろくな実績が無い。何の仕事を任されてもこなせず他の仕事に回されるばかりで、そのような事が響いたのか、最近やっている仕事は新入社員が任されるようなオペレータ(要は電話番)のようなものである。本人がどう思っているのかは知らないが、本来A氏のようなベテラン社員が任されるような仕事ではない。

しかし電話番として上手くやっているかと言えばそれも微妙で、やけに高圧的だったり、慇懃無礼だったり、しょうも無い事(態度がなってないだの、返答が遅いだの)で相手にネチネチ文句を言ったり、場の空気も読まずに勝手に世間話を始めて話を無駄に間延びさせたりと、やり取りを聞いているこっちの方がヒヤヒヤする程である(別に聞き耳を立てている訳でもなく、何せ声が非常に甲高い為、聞きたくなくても勝手に聞こえてくるのだ)。仕事のミスもざらで、他人からそれを指摘されると場合によっては逆切れしたり、露骨に機嫌が悪くなって電話応対の態度が一段とひどくなったりと、子供のような一面もある。

それでいてA先輩の月収は非常に高い。手取りベースで見ても、私の倍では済まない位のはずだ。成果主義型賃金の導入で給料が上がらなくなったと言っても、それまでの年功序列型賃金で散々給料が上がって来たA氏には痛くも痒くも無い(以前も言ったように、成果主義を導入した目的は、若手社員の昇給を頭打ちにさせる事にある。長期的な視野で見た人件費削減策という側面が強い)。個人的にも親しいある管理職の先輩から聞いた所、A先輩はそこいらの管理職よりも月収が高いそうである。

仕事は出来ないのに高給取りという、ただでさえ周囲から妬まれそうなステータスに加え、上述のような子供じみた性格などが災いして、正直職場内でもっとも嫌われている社員であると言っても良い程の扱いを受けている。A氏本人は話好きの為、周囲の社員に世間話を持ちかけたりする事はしょっちゅうあるものの、話かけられた方は明らかに面倒臭そうに応対する者がほとんどで、露骨に顔をしかめて答えるような者すらいる程である(本当、顔に「話かけるな。うざい」と書いているかのような)。A氏もそれに気づいていない訳も無いはずなのだが、態度を改める様子は全く無い・・・。


しかしある程度付き合いの長い私は、A氏に何の悪意も無く、(結果には全く結びついていないとは言え)仕事にもA氏なりに意欲を持って取り組もうとしている姿勢である事を知っている。実はA氏がこのような立場になってしまったのにはある程度同情出来る事情もあるのである。私が入社するより前のA氏は、とある職場でそれなりに活躍して成果を出していたらしい(A氏本人では無く第三者の意見なので信憑性はある)。しかしそこで何かのトラブルを起こし、その責任を取らされて職場から遠ざけられたそうである。しかも同時期にご身内で不幸があるなど、A氏は精神的に打ちのめされ1年ほど休職していたそうである。復帰後の職場はそれまでの知識や経験を活かせない場所ばかりで、しかも性格も以前とは違い少々攻撃的な一面が増えてしまっており、周囲の社員と摩擦ばかり起こしているようなのだ。また当然ながら、A氏と一緒に仕事をしている面々はA氏のそのような事情を全く知らないので、今のA氏の行動に強い嫌悪感を抱いているという状況なのである。

私見であるが、確かに現在のA氏は会社員として優秀だとはお世辞にも言えないが、昔活躍されていた事は事実で、その時の貯金で今を食っていると解釈しても良いと思っている。年功序列とは言え、A氏も何もせずに今の地位を獲得した訳では無いのだ。またA氏は後数年もすれば定年のはずで、正直あまりじたばたせずに慎ましやかに日々を過ごした方が、本人の為にも良いのでは無いかと思っている。勿論そんなアドバイスを出来る訳もないが、、、

定年退職などで職場を去る先輩社員に対しては、いつも送別会を開いているのだが、正直職場の人間から散々嫌われているA氏の送別会にどれだけ人が集まるのかは疑問だし、何より送別会そのものを企画する者がいるのかすら怪しい。万一そのような事態になった場合、私が自ら声を上げて送別会を執り行うつもりである。事情をある程度知る人間として、せめてこれまでのご苦労を労いたいものだ(まあ、それまで私がリストラされずに残っていればの話だが(笑))。


以上、だらだらと書いたが、A氏を見て二つ学んだ事がある。一つは「身の丈を超える出世や収入は、不幸の素」だと言う事である。給料は低いより高い方が良いに決まっている。しかしそれに見合った仕事が出来なければ、職場から爪弾きにされるだけだ。もう一つは、「場の空気を読む」という事だ。A氏は恐らく自身が社交的である事をアピールしたいがために、積極的に世間話を振っているのだと思われるが、ほとんど相手にされておらず、会話が一方通行で痛々しいだけである。勿論だからと言って全く話をしないというのも問題だが、話しかける相手の状況(忙しそうにしていないか)や、食いつき具合を見て適切に判断する必要がある。顔色ばかり伺うのは非常に疲れるしやり過ぎもどうかと思うが、「相手の立場をなるべく尊重する」というのは社会人に求められる基本的な礼儀だと言うのが私の意見である。

もし私がA氏と同じような立場におかれた場合、精神が持つ自信が無い。今のような状況でもなお会社に来れるA氏の忍耐力は、皮肉でも何でも無く尊敬出来るものがある(尊敬出来るものがあったじゃないか)。