「侵略戦争」を明確に定義できるか?


rekihiko3さんより、早速トラックバックを頂いた。

侵略戦争
http://d.hatena.ne.jp/rekihiko3/20120414/1334386841

>パール判事が起訴内容のような「一貫した侵略計画」を証拠不十分として否定しているのは確かだろうが、「侵略戦争であることを否定した」というのは、解釈が間違っているのではないだろうか?

まずrekihiko3さんの上記指摘は的確である。パール判事は「日本の戦争は侵略戦争では無い」とまで明確に断言できている訳では無い。そもそも侵略戦争の定義が不明確という前提の下での考察である為、「侵略戦争か否か」を明確に判断するのはパール判事でも不可能だったのである。「パール判事が日本の戦争についての侵略的要素を全否定した」という風な主張は軽率だった。


パール判事が、意見書の中で侵略戦争についてどのように書いているかを以下に挙げたい。

まず繰り返しになるが、侵略戦争というのは非常に明確に定義し辛い。ある戦争をを自衛戦争なのか侵略戦争なのかを明確に判断出来る基準が無い。少なくとも第二次大戦時は、宣戦布告した国が「自衛目的」と称すればそれがまかり通っていたのである。

パール判事は、日本の戦争行為が「侵略戦争」と定義しうるものであるかを判断する上で、具体的に以下のような事項を挙げている。

 ・中国の共産主義台頭
 ・中国側のボイコット行為
 ・米国の(開戦前時点での)中立問題
 ・日本に対する経済制裁

勿論「中国がボイコットをしたから戦争をしかけられても文句は言えない」とかそんな単純な事は一切言っていない。

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日本の行動が侵略的であったか否かを決定するには、それ以前に関係国が日本に対して行った有害なプロパガンダ活動、経済制裁等を考慮に入れなければならないとパールは強調している。(パール真論:259ページ)

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なお、東京裁判で日本を侵略国として訴追したソ連は、日本の敗北がほぼ決定的になった段階で日本に宣戦布告しているが、これは侵略戦争では無いのかという点が問題となっており、パール判事もこの部分に触れている。これは相対的に「日本が悪いならソ連も悪い」と言っているのでは無く、ソ連の行為を自衛と定義しうるのであれば、ますます日本の行為を侵略行為と判断するのが難しくなる事を意味しているのである。パール判事は以上のように様々な観点から「侵略」の定義について考察し、「おそらく現在のような国際社会においては、『侵略者』という言葉は本質的に『カメレオン的』なものであり、たんに『敗北した側の指導者たち』を意味するだけのものかもしれないのである」と結論付けている。

確実に言える事は一つである。(少なくとも第二次大戦時に)ある戦争を「侵略戦争」と断定出来るのは、宣戦布告した国の指導者が「侵略戦争をする」と明言した場合のみだけであるという事だ。