メディアに政府批判など求めてはいない


「朝日が潰れた後も政府批判ができるメディアは存在するかな?」
http://d.hatena.ne.jp/scopedog/20140902/1409673225

上記記事に対し、ブックマークを付けたのだが、これが意外に好評だったらしく、今までに経験が無い位のはてなスターを付けて頂いた。

ただブックマークコメントでは字数が限られている事もあるし、今更ではあるが当記事でもう少しだけ掘り下げて論じてみたい。


最近の朝日新聞の記事をめぐる一連の騒動については、私は余り興味が無い。

それより興味深いのは左派の慌てぶりである。どうせ「吉田証言なんて古いですよ。今はもう「広義の強制性」の時代ですよ」とでも言って我関せずの態度を取るのは目に見えていたし実際そうだったのだが、苦し紛れとは言え、朝日新聞を擁護しようと必死だったのは意外だった。案外義理堅い面もあるようだ。


まずメディアの役目について考えたい。そもそもマスメディアの役割は何だろうか?ずばり真実の報道である。要するに「事実として何が起きたのか」を正確に報じれば問題ないのであり、それ以上の事など誰も求めてはいない。例えば日本政府が何かアクションを取り、メディアがその情報を発信したとする。その日本政府の行為が良いのか悪いのかを判断するのはその情報の受け手である。マスメディアが良し悪しを判断する必要は無いし、わざわざ受け手にメディアの見解などを述べる必要も無い。「この政府の決定は間違ってますよね」なんて余計なお世話である。


例えをもう一つだそう。あるメディアが以下のような記事を書いたとする。

「本日何時に、○○首相が靖国神社に参拝しました。周辺国からの反発が予想されます。」

事実として意味を成す部分は、○○首相が何時に靖国神社に参拝したという箇所である。周辺国からの反発云々というのは、それが実際に起きたかなどに関係なくそのメディアの見解に過ぎない。実際に周辺国から反発が来た時にその事実を報道すれば良いだけの話である。

余談になるが、1985年に靖国参拝を報じて周辺国からの反発がどうのこうのという記事を挙げたメディアがあった。その後実際に周辺国から抗議が来た訳であるが、周辺国が抗議をしたのはその報道後であると言うのだから不思議だ。日本国首相による靖国参拝はそれ以前にも毎年やっていたのに、何故か抗議が来たのは1985年に「反発が来るぞ」と報じてからなのだ。このメディアが予知能力でも持っていない限り、報道がトリガーとなって周辺国が批判し出した(外交カードとして利用した)と考えるのが妥当だろう。


まあ日本には言論の自由がある以上、メディアに対し自社の見解を発表するなとまでは言えない。しかしそれに価値を見出すかどうかは受け手に委ねられる事であるし、はっきり言えば全く重要なものではない。しかしマスコミには、正確な情報を伝える義務はある。事実でないものを事実であると報道するのは明らかに読者に対する裏切り行為であり、今回朝日新聞が批判されている原因はこの部分にある以上、それ自体は間違いなく朝日新聞の責任である。

scopedogさんは、朝日新聞社が潰れたら、政府批判が出来るメディアが無くなるのでは無いかと懸念を示している。しかし朝日に限らずメディアに政府批判を期待する読者がどれだけいるのかは分からないし、上述の通りそれはメディアの義務でも何でも無い。実際に政府批判が出来る新聞社がいなくなった所で、誰が困るのだろうか?

しかも今回の事態について、「朝日新聞が集団リンチのような仕打ちを受けて言論弾圧によって潰される」と表現していた。しかし、当件について朝日新聞は自らの非を認めている。それについて追及を受けているに過ぎない。万一それが原因で朝日新聞社が潰れたとしても(ただ潰れるまでは行かないだろう)、全くもって自業自得であろう。


とここまで書いたが、正直な所朝日新聞叩きはかなり過熱しており、ちょっと可哀相に思えてくるのも事実である。擁護するつもりは別段無いのだが、一つでも何か不手際があれば、「坊主憎けりゃ袈裟まで」と言わんばかりに徹底的に叩くやり方は個人的には余り好きではない。曲がりなりにも、朝日新聞は非を認めて謝罪しているのだ。これ以上何かを求めた所で朝日新聞に出来る事は無いように思える。

ただ同時に、このやり方は朝日に限らずメディアの常套手段だった。政治家や著名人が何か問題となりそうな発言をして、それを「問題発言」として大々的に報道して世論を炊きつけた結果、下手をすると政治生命を絶つ所まで追い詰められた政治家もいた事だろう。10数年前には、不祥事を起こしたある畜産農家の社長が、メディアから総バッシングを受け翌日自殺したという事例もあった。その意味では、朝日新聞は普段マスメディアが日常的にやっている事をやられたに過ぎず(因果応報)、現状を苦痛であると思うなら今後は襟を正すべきであろう。

朝日新聞に限らず、正義面をして無責任にバッシングして相手を徹底的に追い詰める日本のマスメディアが、不必要に煽ったりせずに「真実を報道する」という原点に立ち返るよう望む次第である。